僕達の願い 第13話


「傷に関しては未来の技術を使うから、大半は跡も残さずに消せるわ。でも、深く傷つけられたもの、正確に言うなら両腕の3箇所と、そして額から左頬にかけての大きなものに関しては、絶対消せるとはいえないわね。でも今よりはずっと綺麗にはなるわよ?両腕は幸い神経は避けているから、きちんと傷が塞がってからリハビリね。大変だけど頑張れば元の状態まで回復できるわ。・・・まぁ、アンタの場合は頑張り過ぎないようにしなきゃ駄目よねぇ。足は神経がやられているから、見ただけではなんとも言えないから、ちゃんと精密検査をしてから考えましょう。目に関しては幸い目蓋の傷は眼球には届いていないわ。此方も精密検査が必要だけど、おそらく精神的なもの・・・ナナリーと同じならギアスで封じられているんだったわね。どうにか解除できないわけ?」

診察を終え、全員がルルーシュとナナリーの部屋に戻ってきたところで、ラクシャータは一気にルルーシュの体の説明をした。ルルーシュが止める隙を与えなかったのは流石というべきか。ゼロとしてのルルーシュとの付き合いしか無いはずなのに、彼の性格をよく知っている気がする。
それに、先程よりも随分と楽そうなルルーシュの様子で、医者としての腕はいいようだと判断した。

「ギアスは強い意志の力で解除できる。が、今は解除はできない」
「・・・何か理由でもあるの?」

かけられた者が自分の意志で解除出来るというのは予想外だったのだろう、一瞬息を呑んだラクシャータは冷静な声でそう尋ねた。

「以前記憶を消されていたことがあるのだが、その時はこの目に宿っていたギアスは力を失っていた。だが記憶を取り戻した瞬間からギアスもまた力を取り戻した。ギアスが肉体に宿っているなら問題はないが、記憶と精神に宿っているのだとしたら、この両眼にギアスが宿っている可能性がある」

つまりこの瞳を開いたら最後、無差別にギアスを掛けてしまうということだ。

「ああ、成る程ね。それってどうにかならないわけ?皇帝だった時はどうしてたの?」

ルルーシュの瞳に宿るギアスに関してはそれなりの知識を持っているため、ラクシャータは深く質問すること無く尋ねた。

「俺のギアスは幸い物を使うことでその力を封じることが出来る。だからあの頃はC.C.がギアス抑制のコンタクトレンズを用意してくれていた。・・・そうだ、C.C.。スザク、藤堂。この土地周辺を調べ、C.C.を見つけ出してくれ」

突然名前を呼ばれたことで、スザクと藤堂はギアスに関するトラウマから思わず俯けていた顔を上げ、視線をルルーシュに向けた。

「C.C.を?この辺りに居るの?」
「あいつは昔ブリタニアから送られた俺とナナリーを遠くから見守っていたらしい。俺とスザクがこの地で遊んでいる姿も目にしていたという。ならば近くにいるはずだ」

開戦後中華連邦に渡ったが、それまではここ、日本に居たと言っていた。

「わかった。ならば私の方で探そう。スザク君はルルーシュ君の傍に」
「よろしくお願いします」

藤堂のその言葉に、スザクは大きく頷き、C.C.の捜索を任せることとした。
スザクはルルーシュを守るのだから、無駄に離れるつもりはない。

「では、後日改めて迎えに来る。その時にはスザク、お前も共に来るのだ」
「よろしくお願いします」

桐原は大きく頷くと、カグヤを連れ枢木の家を後にした。

「で、私は何処で休めばいいのかしら?」

主治医として残された科学者は、スザクに尋ねた。
どうやらルルーシュの治療を考え、かなりの荷物を持ってきているらしい。

「あ、そうか。うーん、父さん新しい部屋用意するの渋りそうだな。隣の僕の部屋でもいいですか?僕はずっとこの部屋にいるので、あちらにはもう着替えぐらいでしか行きませんから」

ジェレミアは主と同室で眠るなどもっての外と断固拒否したため、ルルーシュの容態が急変したり、刺客が来た時のことを考えて、スザクはルルーシュのベッドで一緒に眠ることになったのだ。ルルーシュはナナリーと同じ部屋に男を休ませられるかと、自分のことは棚に上げて騒いだが、ナナリーにもルルーシュに何かあったら自分一人では対応できないから、スザクをルルーシュの側にと言い包められていた。

「隣ね。まあ近いほうがいいから私は構わないわよ」

どうせ短い間なのだし。

「じゃあ部屋の掃除と、ベッドメイキングをしますね。少し待っててください」

そう言うと、スザクは部屋の外へ出た。

「あれがこの前までゼロやってた枢木スザクねぇ。実際にこうして会うの初めてだけど、あれがねぇ」

心底意外そうな声音でラクシャータはそう呟いた。

「そんなに意外か?」

ルルーシュのその問に、回りにいるものは全員困ったように苦笑した。

「意外といえば意外よね。だってあのゼロは死人のようだったもの。でもこっちのスザクはちゃんと生きてるのよねぇ」

あの10年を過ごした者に間違いないはずなのに、まるで別人に見えるとラクシャータは口にした。

「・・・死人?」
「スザクさんはお兄様を手にかけたあの日以降、ご自身を殺して生きていました。私が二人きりで居る時にスザクさんと声をお掛けしても、枢木スザクは死んだのだと、ここに居るのはゼロであり人ではないと。人としての心はもう必要ないのだと・・・」
「・・・」

だんだん小さくなるそのナナリーの声は悲しみに包まれていて、ルルーシュは思わず息を呑んだ。この地で再会したスザクは、自分のよく知るスザクだったから気づけなかったが、彼らの声音と気配で真実を察することは容易だった。
ゼロとして生きろと、人としての幸せも全て捧げろと言ったのはルルーシュ自身だ。
あの頃のスザクに優しい言葉などかける訳にはいかなかった。
かけたところで拒絶されることは解っていた。
だからこそ、そう口にしたのだ。
枢木スザクは罪を犯しすぎた。だから、スザクとしての生を捨て、ゼロとして生きることで、英雄としての幸せを、未来を手にして欲しかった。だが、スザクは枢木スザクという人格をも殺し、人として生きることも否定してしまったのか。ルルーシュもまた多くの罪を犯した。その罪のすべてを理解し、全てを背負い逝ったつもりで居たが、死に間際に犯した罪には気づけなかった。

「お待たせしました。ラクシャータさん、部屋へ案内します」

ノックもせず入ってきたスザクの声音は明るいもので、どうしても皆から受けた印象とは違いすぎた。何かしらの切っ掛け・・・仮面が無く、ゼロを名乗らなくていという環境が、彼を元のスザクに戻したのかもしれない。

「じゃあ、また後でねルルーシュ。寝れるようなら寝てなさい」

強力な睡眠薬入りの薬は、全てラクシャータに没収された。そのため、今までのような強制的な眠りは訪れない。

「解った。眠れるよう努力しよう」
「しなくていいわよそんなもの。アンタはしばらく努力することを忘れなさい。何も考えずのんびりと体を休めるのよ。今のアンタに必要なのはそれなんだからね」

そう説教してからラクシャータは部屋を後にしたが「何も考えずにのんびり?そんな時間の無駄をしろと?いや、時間の無駄というなら今の状態も変わらないのか・・・くそ、この動けない時間に何かできることはないのか!いや今は眠らなければらないのか。だが長時間眠り続けていたから・・・」と、結局グルグルと思考を巡らせた結果当然眠れるはずもなく、様子を見に来たラクシャータに何故かバレ、いかに体と脳を休めることが今大事かを延々と説教されることになる。

12話
14話